福岡の弁護士法人 山田総合法律事務所

1 後遺障害(後遺症)とは何か 事故にあって怪我をした場合、その後治療を継続してきたものの、症状が完治しないまま、それ以上はいくら治療しても改善が期待できなくなってしまうこともあります。 このように、治療を継続してもそれ以上の改善が期待できない状態のことを「症状固定」といい、残存した障害のことを後遺障害(後遺症)といいます。 損害賠償の実務においては、このような後遺障害(後遺症)を負った被害者については、「後遺障害(後遺症)による逸失利益」と「後遺障害(後遺症)による慰謝料」の賠償が認められています。 ただし、後遺障害が残った場合には、自賠責保険の等級認定を受ける必要があり、等級認定がなされなかった場合(非該当の場合)には、原則として後遺障害がないものと取り扱われることになります。 また、認定される等級についても、1級~14級まであり、何級と認定されるかによって、上記の「後遺障害(後遺症)による逸失利益」「後遺障害(後遺症)による慰謝料」の額が異なってきます。 ちなみに、平成24年現在で、自賠責保険が定める後遺障害の慰謝料は下記のとおりです(平成22年6月10日以後発生の事故に適用)。 したがって、この「等級認定がなされるかどうか」「何級と認定されるか」が重要なポイントとなります。

●通常
1級(3,000万円) 2級(2,590万円) 3級(2,219万円) 4級(1,889万円) 5級(1,574万円) 6級(1,296万円) 7級(1,051万円) 8級(819万円) 9級(616万円) 10級(461万円) 11級(331万円) 12級(331万円) 13級(139万円) 14級(75万円)

●介護を要する場合
1級(4,000万円) 2級(3,000万円)

 

2 適切な後遺障害等級を認定してもらうために

(1) 交通事故に遭ってしまった場合、怪我が完治するのが一番です。
しかしながら、ある程度治療を続けても痛みが残ってしまったり、関節が曲がらなくなったりといった、いろんな症状が残ってしまうことがあります。このような場合には、治らずに残った症状について適切な後遺障害の認定を受けなければいけません。
それでは、適切な後遺障害の認定を受けるにはどのようにすればよいのでしょうか。

○ 通院が大切!!

まず、事故に遭われた場合、きちんと通院されることが一番大切です。怪我を治すためにきちんと通院することが必要なのはいうまでもないことですが、しっかり通院せずに、症状が残った場合には後遺障害が非常に認定されにくくなってしまいます。通院回数が少ない場合には本当はとても痛かった場合でもたいした痛みではなかった、と判断され後遺障害にあたらないとされることがよくあります。
また、長く通院していない期間があるとその後通院を再開しても、再開後の症状について交通事故との因果関係が否定されて後遺障害が認められないこともよくあります。ですから痛みが続いているのであれば、定期的に通院されることをお勧めします。
お仕事の関係でなかなか通院できないという方もいらっしゃると思いますが、後の賠償のことを考慮すれば、必ず定期的な通院をなされることを強くお勧めします。
また、通院される場合に整骨院のみの通院では痛みなどの症状が残っても整骨院では後遺障害診断書を作成することができないので、整骨院に行かれる場合でも整形外科にも併行して受診されることをお勧めします。

○ 診断書にもれなく記載!!
整形外科で医師の診察を受ける場合には自覚症状をしっかり診断書やカルテに記載してもらわなければいけません。
例えば、事故当初から首と腰に痛みがあった場合でも、事故当初の診断書やカルテに腰の痛みしか記載がなく、治療を続けるうちに腰の痛みは治って首の痛みだけが残った場合、後遺障害診断書に首の痛みと記載されても、症状の一貫性がないとして後遺障害にあたらないとされる可能性が高いです。
このようなことにならないためにも自覚症状は最初から全て診断書にきちんと書いてもらってください。

○ 必要な検査は受けましたか??
治療の際には、必要な検査をきちんと受けるということが大切です。検査を受けることで症状の原因がわかり治療方法が異なってくる可能性があることは勿論、症状が残ってしまった場合に認定される後遺障害が異なってくる可能性があるからです。
例えば、X線撮影では骨折の有無は分かりますが軟骨等の軟部組織の損傷は画像に写りませんが、MRI検査をすると軟部組織の損傷が明らかになる場合があります。
また、むち打ち等で神経症状が残った場合には、腱反射検査、スパーリング検査、ジャクソン検査といったような神経学検査が有用です。

(2) きちんとある程度の期間通院を続けていても、症状が残ってしまうことがあります。このような場合には主治医と相談の上、症状固定ということであれば後遺障害診断書を書いてもらうことになります。
ここで注意して頂きたいのは、症状固定を判断するのは保険会社ではなく主治医です。症状固定かどうかを判断するのはあくまでも主治医であって保険会社ではありません。よくある追突のむち打ち事案などでは事故から6ヶ月程度で症状固定となるケースが割と多いですが、保険会社から事故後まだ3ヶ月しか経っていないのに治療費を打ち切るので後遺症診断書を書いてもらうように指示された方がいらっしゃいました。
しかしながら、このように保険会社が一方的に症状固定時期を決めることはできません。症状固定と判断されれば以後の治療費は自己負担となり(立て替えた後に保険会社に請求することもできなくなります。)、さらに通院慰謝料も症状固定までの期間についてしか算定されませんから低い金額にとどまりますし、症状固定までの期間が短い場合には事故によるものと認められる明確な画像所見がないような場合には後遺障害が認められない可能性が高くなります。このように、症状固定かどうかは極めて重要な事項です。
ですから、たとえ保険会社から早期に症状固定を求められたような場合でも、言われたとおりに後遺障害診断書を書いてもらうのではなくも主治医と相談の上で症状固定には時期尚早と主治医が判断する場合には、保険会社から治療費の支給を打ち切られても健康保険を使って通院を継続し、主治医が症状固定と判断した段階で書いてもらいましょう。
そして、できれば、その課程で弁護士にご相談されておくことを強くお勧めします。医師は、症状固定の法的な意味合いを良く理解されていない方もいらっしゃいます(お医者さんは病気や怪我を治すことが仕事であって、賠償金や症状固定の法的な意意味合いをご存じないというのはごく当然のことです。)ので、医師に症状固定の判断をされる以前の段階で、ぜひとも弁護士のアドバイスを受けておくことをお勧めします。

 ○ 自覚症状はもれなく記載!!
後遺症診断書作成においては、右上の「自覚症状」欄には残存している自覚症状についてもれなく記載してもらってください。「他覚症状・検査結果」欄には、神経学的検査で症状を裏付ける所見が出たような場合には必ず結果を記載してもらうことが重要です。
「障害内容の緩解・増悪の可能性」欄については、「今後も持続可能性が高い」、「緩解は期待できない」等の記載があれば一番良いのですが、中には「緩解の可能性がある」等の記載がなされているものを散見します。後遺障害診断書にこのような記載があると事故によるものと認められる明確な画像所見でもない限りまず間違いなく非該当となります。過去にこのような記載がなされた診断書を作成した主治医と面談して確認したところ、緩解する可能性もあるが緩解しない可能性もあるとのことでした。このように緩解する可能性、しない可能性の双方があるのであれば緩解する可能性があるという記載をすべきではなく空欄としてもらうか不明と記載してもらうのが適切だと思われます。

 ○ 後遺障害診断書に書ききれない場合は?
後遺障害診断書の作成については自覚症状をもれなく記載する必要がありますが、さらに、後遺障害診断書の限られたスペースで等級認定の審査に有用な情報を網羅することはなかなか難しいのが実情です。
そこで、医師と面談して、症状の原因となる画像所見の有無や画像所見が事故によって生じたものか、事故から症状固定に至るまでの症状の一貫性、事故による受傷態様から見た場合現在の症状が残存していることついて何ら不自然ではないか、今後の症状の持続可能性について話を聞き、可能であれば意見書を作成してもらうようにしてもらいましょう。
ご本人がそのようなことを依頼されるのは気が引ける場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。

 ○ 物損は後遺障害とは関係ないの??
後遺障害の等級認定請求には、物損の損害は直接には関係ありませんが、例えば乗っていた車が大破して全損になっている場合には、当然乗っていた人の身体にも相応の衝撃が加わっているはずです。ですから、物損事故における車両の損傷が大きいような場合には、被害車両の写真を添付することも有益です。
後遺障害の等級認定を受けるには、保険会社に後遺障害診断書を渡して保険会社を通じて認定手続(事前認定)を進めてもらう方法と、被害者請求といって被害者自ら後遺障害等級認定をする方法があります。
保険会社に認定手続きを任せると楽ではありますが、認定機関には必要最低限の医証や画像の提出はされますが、それ以上の上記のような医師の意見書、陳述書、被害車両の損傷の写真などは添付されません。
逆に後遺障害の認定にマイナスに働くような医療照会結果がある場合には添付されてしまう可能性もあります。
そこで、後遺障害認定手続きは被害者の方で主体的に行う方が良い場合があります。しかしながら、先に述べたような、医師と面談して意見書を作成してもらったり、日常生活への支障を文章にまとめるのは被害者の方がご自分でされるのはとても大変です。そこで、弁護士に後遺障害等級認定手続き自体を任せられることをお勧めします。